先日、SDGsに関するウェブサイトを立ち上げたので、私が最初に取り組んだSDGs活動「年明けVRChat音楽ライブプロジェクト2021」について振り返ります。
プロジェクトについて
背景
当時、新型コロナウイルス感染症の影響で、イベントが次々と中止・延期になりました。
人々の交流は段々と少なくなり、不安や孤独感といったネガティブ感情を抱える人が増えていました。気軽に誰かと会って、悩みを相談することができなくなったため、辛い気持ちのまま過ごす人が大勢いました。
そのような状況は、SDGsの達成目標3「すべての人に健康と福祉を」から大きくかけ離れています。
そこで、メタバースにおいてユーザーがアバターに相談をする研究 [1] をスタートしました。また、少しでも人々のネガティブ感情を低減する方法はないかと考え、音楽×VRに着目しました。
VR空間において音楽ライブを実施すれば、コロナ禍であっても、人々は時間や空間を他者と共有しながら、没入して楽しむことができるのではないだろうか [2] という考えから、VRChat音楽ライブプロジェクトを始動しました。
どのような活動なのか
その名の通り、年明けにVRChat上で音楽ライブを行う活動です。ライブの雰囲気や感動を参加者全員で共有して、楽しむことが目的です。メンタルヘルスの観点から、「すべての人に健康と福祉を」に取り組みます。
VRChatというのは、バーチャルリアリティ (VR) 空間において、アバターを操作して (アバターに憑依して) 他者とコミュニケーションをとることができるゲームです。
私はこれまで、研究やVR作成の勉強、娯楽など色んな目的でVRChatにお世話になりました (数百時間はプレイしました…)。
当時、VRChatと並ぶ日本のソーシャルVRとして、Clusterがありました。
Clusterは日本で初めて有料でのバーチャルライブを行っています。また、数百人以上を収容することができるため、大規模なイベントを開催することが可能です。
よって、当初は私もClusterを使って、バーチャルライブ会場を作り、そこで音楽ライブを開催しようと考えました。
しかし、
①その頃はVRChatで音楽ライブをやる人が少なかった
②VRChatを使って研究をしていたため、VRChatのワールド作りに慣れていた
③VRChatの方がユーザー数が多い
といった理由から、最終的にVRChat上で音楽ライブをすることにしました。
とはいえ、私には音楽で人を魅了する力がありません。歌うことは好きですが、楽器も弾けないし、音楽ライブをした経験もありませんでした。そこで、まずは一緒にライブを開催してくれる人を探すところから始めました。
バーチャルライブの準備
ライブ経験がある方 (例えば、大学の軽音楽部に所属する人など) を対象に何人か声をかけて、VRで音楽ライブをすることに興味がないか尋ねていきました。
皆さん、興味を持ってはもらえるのですが、①年明けは忙しい、②ライブ当日まで時間がない、といった理由から、中々引き受けてくださる方が見つかりませんでした。
プロジェクトを思いついたのが11月の上旬。ライブ本番まで、わずか2ヵ月しかありませんでした。その頃は私も大学院の講義資料作りや研究で忙しく、年末年始ぐらいしかプロジェクトを実施できる余裕がありませんでした。
1週間経って、ありがたいことに音楽専門学校「ESPエンタテインメント大阪」のヴォーカル科に所属している学生 (Aさん) が協力してくれることになりました。
私はAさんと何度も打ち合わせを重ね、希望するライブステージのイメージや使用するアバター、ミュージックビデオ (MV)、どのような曲を歌うか、どうやって参加者を集めるか、といったことを決めていきました。
ライブ本番まで時間が限られていたため、Aさんには選曲や歌の練習に専念してもらい、その他の準備を私が担当するという役割分担をしました。
ライブステージの作成にはUnity (2018.4.20f1)、アバターの作成にはVRoid Studio (v0.8.3)、MVの作成にはAdobeの動画編集ソフトを用いました。
また、参加者の方にはVRChatにログインしてもらう必要があるため、VRChatに慣れていない方用にマニュアルを作成しました。
コロナ禍であったため、Aさんと直接会ってリハーサルをすることができなかったのですが、Zoomを使いながら少しずつ微修正を重ねていきました。
そしてバーチャルライブ前日。
感染対策に細心の注意を払いながらAさんに会い、リハーサルをしました。リハーサルでいくつか問題点が見つかったため、夜通しプログラムの修正をしてVR音楽ライブ環境を整えました (やっぱり実際に会って、合わせてみないと実感が掴めない部分もあると感じました)。
バーチャルライブ当日
Aさんが自由に大声を出して歌えるよう、音楽スタジオを借りました。機材のチェックを行い、パソコンの搬入やマイクの設定などを行いました。
お互いバーチャルライブを開催するのが初めてだったので、とても緊張しながら準備をしていたのを覚えています。
そして、2021年1月3日の21時10分から、年明けVRChat音楽ライブ (バーチャルライブ) を開催しました。当日の客入りは11人だったのですが、とても盛り上がりました。
Aさんが選曲してくれた各曲のイメージに合わせてMVを作成したのですが、「歌声と動画の雰囲気がとても合っていて、実際のライブ会場にいる感じだった」というコメントを参加者の方からいただきました!
また、ライブの最後に、Aさんにアカペラで歌ってほしいリクエスト曲を募集したところ、多くのリクエストを参加者の方々からいただきました。
プロジェクトのまとめ
プロジェクトの成果をまとめ、第21回理工系学生科学技術論文コンクールに応募したところ、ありがたいことに入賞いたしました。論文にまとめたこと以外について、この記事で掘り下げたいと思います。
バーチャルライブの効果について
ライブ終了後、参加者の方に満足度アンケートをお送りして、感想等をうかがいました。アンケートの内容は次の通りです [2]。
アンケートの結果からは、参加者の多くがライブや映像の演出に満足していたことが分かりました。
また、ライブの録画映像を見るよりも、VR空間を通してリアルタイムのライブを楽しみたいと考えている人が多いことが分かりました。
一方で、ライブ中の音声についての評価は低かったです。
音声が鮮明ではなかったことについて、
・3人が「VRChatから聞こえる音質 (音ズレやノイズなどを含む)」によるもの
・1人が「ネットワーク環境の不具合」によるもの
・1人が「その他 (歌は聞こえたが、MCが話している声が聞こえなかった)」
を挙げていました。
では、なぜ音質が良くなかったにも関わらず、ライブの満足感が高かったのでしょうか。
その理由は、他の人とライブ空間を共有して楽しむことができたからだと、私は考えています。VRChatを通じて、それぞれ自宅から一つの場所に集まり、参加者-演者-MCがそれぞれ一体感を持って楽しむことができました。
よって、メンタルヘルスの観点から、「すべての人に健康と福祉を」に取り組むことができたと考えています。
先述した [2] では、将来的に多くのアーティストが VR 空間でライブを行うようになれば、
① COVID-19 による外出自粛や病気による入院など、外出が制限された人であっても時間や場所を他者と共有し、楽しむことができる
② 観客がアバタを通じた身体性を獲得し、自由な視点で移動することや、演者とのインタラクションができる
③ 感染症が蔓延する世の中であっても、既存のエンタテインメントの代替として、経済貢献を果たせる
といったことを書きました。
2022年5月現在、新型コロナウイルス感染症のネガティブな影響はまだ続いていますが、バーチャルライブはもはや一大イベントとなり、様々なVR空間で開催されるようになりました。
きっと、各ライブが誰かのネガティブな感情を低減することに貢献していると思います (参加者-演者-裏方など、すべての関係者が一体感をもって楽しさを共有できるため、それぞれがお互いに良い影響を及ぼしていると考えられます)。
プロジェクトをさらに詳しく知りたい方へ
年明けVRChat音楽ライブプロジェクト2021が終わった後、Aさんと反省会を行いました。
また後日、参加者の方と意見交換会を行い、「①映像配信 (インスタライブやYoutubeライブなど) ではなく、VR空間を通じてライブをすることの意義は何か?」、「②VR空間ならではの企画・演出として何ができるか?」を話し合いました。
プロジェクトの分析結果、反省会、意見交換会を踏まえて、今後のバーチャルライブで必要になることを報告書にまとめました。
SDGsの「すべての人に健康と福祉を」の話からは少し逸れてしまうため、続きをどこかで書きたいと思います。
引用文献
[1] Kawakita, T.,Sasaki,T.,& Ishihara,S. (2021). Remote virtual counseling and effects of embodied cues: toward casual on-line counseling under COVID-19 situation, AHFE2021, 260, 952-960.
[2] 川北 輝 (2021). 科学技術と日本の将来「コロナ禍におけるVR音楽ライブの実践と新たな娯楽としての可能性」 Retrieved from http://rikokei.jp/winning/dl/article_2021_09.pdf. (2022年5月28日 閲覧).